www.liberdade.com/ 週刊田崎
疾走ペルー 最近の仕事っぷり
 
 
 
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「警察だよ」
「警察?」
思わず聞き返した。
「この街は麻薬組織、テロリストの温床だ。見慣れぬ外国人が空港に着くと尾行がつく」
フジモリ政権はテロリストに対して断固たる処置を取った。
毒には毒を。強力なテロリストには強力な警察組織を。

「お前も知っていると思うが、この国ではテロリストも危険だが、警察も危険なんだ」
強力な警察組織は、時に暴走する。ペルーでは何人もの外国人ジャーナリストが逮捕され、人権団体が抗議をしていたことを思い出した。
「奴らは俺が誰だか知っている。お前が俺の友人だということが分かったので、もうしばらくしたら引き上げるだろう」

93年に警察の特殊部隊DINCOTEは、タラポト周辺ではMRTAは壊滅したと発表した。しかし、その後も2千人といわれる人員をタラポトから動かしていない。
もう一つのテロ組織、センデロ・ルミノソがまだ生き残っているからだ。
秘密警察SINによると、ワジャーガ河周辺には千五百人のセンデロの構成員が潜んでいるという。
タラポトは未だに警戒状態にあるのだ。

4WDはワジャーガ河の畔で止まった。半ズボンに汚れた半袖のシャツを着た男が運転席に近寄った。運転手は僕たちのほうを振り返り、車から降りるように言った。
ワジャーガ河が目の前に広がっていた。対岸までは五十メートルはあるだろう。
「このフェリーで向こう岸まで渡る」
アドルフォが河岸を指さした。
十メートルほどの細長い木製のボートを四隻横に並べた上に板が何枚も渡してあった。一隻のボートの後部にはプロペラが着いたエンジンが白い排気をあげている。4WDは、岸からフェリーに渡した二枚の板にタイヤに載せ、フェリーに乗った。僕たちもフェリーに飛び乗った。

大雨の後のように砂をたっぷりと含んだ茶色をした水の中を、フェリーはゆっくりと進んだ。河は自然に任せて氾濫に氾濫を重ねて、姿を変えているのだろう。遠くに、山が削り取られて河岸となっているのが見える。
「つい最近までこの河には軍が検問を作っていた。この河には橋がないからテロリストに対して格好の検問の場所になっていた」
アドルフォは片手で太陽を遮りながら、向こう岸を指さした。

分厚い雲が空一面を覆っているというのに、太陽の光は重く身体にのし掛かってくる。真冬の東京から到着すると、気温三十度にいかないリマでさえ暑くて仕方がなかった。しかしタラポトに比べれば、可愛いものだったと思う。ここでは、四十度近い暑さの上に湿度がある。普通に生活するだけで体力が奪われそうだ。

ワジャーガ河を越えると格段に道が悪くなった。道は右に左に曲がり、山を登っていく。車一台通るのがやっとの道だ。落石したのか、直径一メートル以上ある大きな石が道端に転がっている。窓から下を覗き込むと、下は切り立った崖。
「たまにここから落ちて死ぬ奴もいる。運転手が俺で良かったぜ、お前たちは」
運転手は嬉しそうにハンドルを大きく切った。

剥き出しの山道の端には塩の結晶が浮き出ている。時折山の斜面の一部が伐採したように緑が削り取られていた。この辺りの土は塩を含んでおり、雨で塩分が流れ出すとその一体の樹木は枯れてしまうのだ。人の手が入りにくい場所の上に、痩せて塩分を含んだ土地。この辺りの農民は幾ら働いても暮らしは楽にならないだろう。

車は左右上下に揺れた。ディアナは、窓の外を指さしてはしゃいだ。しかし、一時間もするうちに車内は沈黙が支配した。さらに一時間。風景は変わらない。日本の森のように圧迫感のない森林とでもいえるだろうか。密林という程のうっそうとした緑ではない。揺れで臀部に痛みを感じる程になってきた。

風景にも飽き、いい加減うんざりとして来た時、平らな道になった。

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