週刊田崎
   
     
 

“大泥棒”と“嘘つき”が残ったペルー大統領選「次なる展開」
SAPIO(小学館)「WORLD WATCH」2001.5.9号掲載
ペルー大統領選翌日のリマでのこと。
「大泥棒と嘘つきのコカイン常習者、どっちがましだと思う?」
タクシーの運転手は僕に尋ねた。

4月8日に行われた大統領選挙は、トレド、アラン・ガルシア、フローレスの順番で終わった。驚きは「大泥棒」こと、元大統領のアラン・ガルシア・ペレスが二位に入ったことだ。1月、政治亡命していたコロンビアから帰国、票を延ばし、初の女性大統領を目指すフローレスを僅差で差し切った。一位のトレドは30パーセント強、過半数に届かなかったため、上位二人で決選投票となる。

85年からの5年間、アラン・ガルシアは、国内産業保護政策をとり、財政赤字とハイパーインフレを引き起こした。また、テロリズムの横行。国をがたがたにした後、不正蓄財容疑で92年政治亡命。

一方のトレド。コカインが検出された尿検査の結果が報じられた。本人は、「秘密警察によって誘拐され、無理矢理コカインを服用させられた」と否定したが、狂言誘拐だった疑いが強い。

選挙前、リマで行われたアラン・ガルシアの集会に足を運んだ。開始2時間前から、アランの歌が大音響で流される。物悲しい旋律に甘い歌声。百九十センチ近い長身、混血の親しみやすい笑顔。大統領時代、オートバイに乗り、警官を引き連れ愛人宅に通ったという武勇談もこの国の人々を惹きつける。広場を埋め尽くす何万もの群衆の前に姿を現したアラン歓声を全身で浴びるその姿は、まるで俳優のようだ。

登場5分後ようやく、口を開いた。「反フジモリ独裁に戦ってきたトレド」「この国の女性進出の象徴であるフローレス」にまず敬意を表した。この国の人々は熱しやすく冷めやすい。ほんの半年前、反フジモリを掲げたトレドに熱狂した。相変わらずフジモリを口汚く罵るだけのトレドに人々が飽きていることを肌で感じ取っていたのだろう。対立候補を立てることで、懐の広さを見せた。

選挙が近付くにつれ、トレドの支持率は下り、アランは上がった。その傾向は選挙後も変わらない。この傾向が決選投票まで続くか分からない。ただ、アランは、成果は別にして、人々の反応を感じることのできる政治家であることは確か。欧米のメディアがこれまで持ち上げてきたトレドはその器に遠く及ばない。

「今回は白票だ。実はな、ずっとフジモリに投票し続けていたんだ、俺は」
件の運転手はぽつりと言った。ニュースがすぐに風化してしまうこの国では、フジモリ脱出騒動は過去のものになりつつある。反フジモリに振れた振り子は今、逆に大きく振れつつある。

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