週刊田崎

田崎 健太 Kenta Tazakimail

1968年3月13日京都市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部など を経て、1999年末に退社。サッカー、ハンドボール、野球などスポーツを中心にノンフィクションを 手がける。 著書に『cuba ユーウツな楽園』 (アミューズブックス)、『此処ではない何処かへ 広山望の挑戦』 (幻冬舎)、『ジーコジャパン11のブラジル流方程式』 (講談社プラスα文庫)、『W杯ビジネス3 0年戦争』 (新潮社)、『楽天が巨人に勝つ日−スポーツビジネス下克上−』 (学研新書)。最新刊は 、『W杯に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇―』(新潮文庫)。4月末に『辺境遊記』(絵・下 田昌克 英治出版)を上梓。 早稲田大学非常勤講師として『スポーツジャーナリズム論』を担当。早稲田大学スポーツ産業研究所 客員研究員。日本体育協会発行『SPORTS JUST』編集委員。愛車は、カワサキZ1。

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200811

2008年12月13日

前略

最近お会いした方は、僕から直接お聞きになっているかもしれません。
今年6月からある競技団体の立ち上げに関わっています。

ことのきっかけは、僕が教えている早稲田大学の「スポーツジャーナリズム講座」でした。担当教授である平田竹男さんから、あるシンクロナイズドスケーティングという競技の元選手である、星野有衣子さんを紹介されました。
僕はシンクロナイズドスケートという競技をそれまで知りませんでした。
シンクロスケーティングとは、16人制のフィギュアスケートです。シングル競技と違い、ジャンプがありません。アイスダンスの16人制と考えて貰った方が近いかもしれません。
日本では、浅田真央選手をはじめとしたシングルスケーターに注目が集まりますが、星野さんも、スケート世界選手権で金メダル二つ、銀メダル二つを獲得していました。この競技は、16人のうち4人までは外国籍の選手が入ることができます。彼女は単身、スウェーデンに移り住み、世界最強のチームであるスウェーデン代表として大会に出場していたのです。今年三月に選手を引退、彼女は日本に帰国していました。
彼女にスポーツジャーナリズムの授業に来て貰い、学生の前で公開取材をしました。
自分の信じる道を進んだ彼女の凜とした姿に、特に女子学生からの反応が良く、可能性のある競技であるとは感じました。
スポーツジャーナリズム講座が6月に全て終了した後のパーティで、平田さんから声を掛けられました。
星野さんを中心に、シンクロスケーティングのクラブを設立するので手伝って欲しいということでした。日本は、フィギュアスケートのレベルは高いが、シンクロは残念ながら世界水準にありません。
世界で戦えるクラブを作りたい。シングルのポテンシャルを考えれば、「やり方」によっては十分可能だと彼女は考えていました。
軽い気持ちで快諾したのですが、翌日には僕が理事長という役割になっていることに気がつきました。
正直なところ、悩みました。
僕はあくまでも書き手であり取材者です。取材をするうちに、もっと知りたいという欲求にかられます。競技団体の中に入ることは誘惑といっていいでしょう。しかし、自分自身が競技団体の主体となれば、その競技を冷静に、そして公平に描くことができません。ジャーナリズムの基本から考えれば、一線を踏み越えることになります。
ただ−−。
僕は数年前からハンドボールの取材をしています。そこで知ったのは、いわゆるマイナースポーツの 現場では、圧倒的に経験と知識が不足しているということです。競技としてのポテンシャルとチャンス、選手としての才能があるのに、埋没していることを残念に思ったのです。
僕は、野球については「楽天が巨人に勝つ日」、サッカーについては「W杯ビジネス30年戦争」などの著書を取材する過程で、スポーツビジネスの現場を見てきました。普通の人間よりも、スポーツとビジネスについては知っているほうでしょう。また、平田さんを始めとするスポーツビジネスを知悉した知人も周りに少なくありません。
コーチとなる星野さんたちが、必死に競技の魅力について訴える姿を見て、僕にできることはやってみようと思うようになりました。

今年7月、私たちの新しいクラブ「日本シンクロナイズドスケーティングクラブ」は東京都スケート連盟から正式に承認されました。
様々なところで、報道されているように、スケートリンクの数は減少しています。まず練習環境を整えることから始めました。8月、9月と関東近郊のスケートリンクに足を運び、担当者に時間を頂き、お話をさせてもらいました。関係者の好意もあり、少しずつリンクの予約も増えてきました。
クラブの当面の目標は、来年の日本選手権を勝ち抜き、再来年の世界選手権に出場することです。
この競技は、将来オリンピック競技に入る可能性があります。五輪入りを睨んで、アメリカではここ数年の間に、五百以上のクラブが設立されています。五輪競技となった時に、出場権を得ること、これを近未来の目標に掲げています。
もっとも私たちのクラブは、まだ競技に必要な選手も集まっていません。よろよろと歩き始めたばかりのクラブではありますが、視線は高く、世界を見据えていきます。

現在は、週一回の割合で、東京、埼玉のリンク、スポーツジムで練習を重ねています。
先日、公式webを立ち上げました。
http://www.japansynchro.jp

それでは書き手としての田崎健太はもちろんですが、「日本シンクロナイズドスケーティングクラブ 」も宜しくお願いします。

日本シンクロナイズドスケーティングクラブ
理事長 田崎健太

日本シンクロナイズドスケーティングクラブ

撮影 鵜川真由子