週刊田崎

田崎 健太 Kenta Tazakimail

1968年3月13日京都市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て、1999年末に退社。
著書に『cuba ユーウツな楽園』 (アミューズブックス)、『此処ではない何処かへ 広山望の挑戦』 (幻冬舎)、『ジーコジャパン11のブラジル流方程式』 (講談社プラスα文庫)、『W杯ビジネス30年戦争』 (新潮社)、『楽天が巨人に勝つ日−スポーツビジネス下克上−』 (学研新書)、『W杯に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇―』(新潮文庫)、『辺境遊記』(絵・下田昌克 英治出版)。 最新刊は『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)。
早稲田大学講師として『スポーツジャーナリズム論』『実践スポーツジャーナリズム演習』を担当。早稲田大学スポーツ産業研究所招聘研究員。『(株)Son-God-Cool』代表取締役社長。愛車は、カワサキZ1。twitter :@tazakikenta

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2012年11月22日

昨日の『本の卒業式』で、最初取りあげようと思ったのは、ジョン・リードの『反乱するメキシコ』だった。

子どもの頃から本が好きであったが、ノンフィクションはあまり読んで来なかった。大学卒業後、出版社に入社し、週刊誌で働くようになると、自分の無知さ加減を実感した。週刊誌で行われている取材が正しいとも思えないにしても、過去の作家がどのように取材して作品を作り上げているのか、興味を持つようになった。ノンフィクション作家の担当をするようになったこともあり、ノンフィクションを読み漁った。
その中で出会ったのが、ジョン・リードの『世界を揺るがした十日間』だった。
これはロシア革命を描いた名作中の名作である。この本を読み、モスクワの赤の広場にアメリカ人として唯一名前が刻まれているジョン・リードに興味を持った。そこで『反乱するメキシコ』を見つけることになった。『反乱するメキシコ』は『世界を揺るがせた十日間』の原型とも言える作品である。完成度としてはずっと落ちるが、青臭い作者の姿があちらこちらに現れていて、ぼくはより魅せられた。
この本は、メキシコ人による序文から始まっている。そこでジョン・リードは、感じのいい(シンパティコ)アメリカ人(グリンゴ)と称されている。
メキシコ革命の革命軍の中に入って行き、不慣れなスペイン語を操ってコミュニケーションを図る姿は、まさにシンパティコだったろう。人の懐に飛び込み、愛されるジョン・リードだから書けた本だった。
ぼくの著書、特に『此処ではない何処かへ 廣山望の挑戦』、『辺境遊記』などの取材手法は、明らかにジョンから影響を受けている。
『本の卒業式』では、その本を卒業≠オ、他人に託すという会である。十年ぶりに『反乱するメキシコ』の端が黄ばんだ頁を開いて読み進めると、また新しい発見があった。卒業どころか、手元に置いておきたいという気持ちが強くなった。

ふと、事務所の本棚にある『俺・勝新太郎』が目に入った。これだ、とすとんと心の中で音がした気がした。
『俺・勝新太郎』は勝新太郎さんが生前に著した唯一の自著である。表紙の顔写真を見ると辛くなるので、勝さんが亡くなってからしばらくはこの本は本棚にさえ置けなかった。その後、自分が物書きとして歩き出してから、本棚に置き、たまに頁を開いた。
この本は、ぼくが勝さんとの連載でやっていたのと同じように、話したものをテープに吹き込み、文字起こしして、原稿の形に整えている。だから、ゆっくりと文字を心の中で音読していくと、勝さんの話のリズムが甦ってくるのだ。
勝新太郎という男を描くことを決心して取材を始めてからは、何度も本を読み返した。そうして『偶然完全 勝新太郎伝』を昨年上梓することが出来た。

単行本の取材では生前の勝さんと付き合いが深かった人に次々と会った。多くの人は、心の中に勝新太郎の像を抱えていた。勝新太郎は強烈な影響力を持った男である。知らず知らずに勝さんの生き方を真似るようになる人も多い。ただ、勝新太郎の生き様は彼にしか出来ない――水原弘さんのような才能ある歌い手でさえ、勝さんのように生きようとして、借金を抱えて死に急いだ。
ぼくは『偶然完全』で勝さんの姿を伝えることも出来た。そして、今も勝さんはぼくの中に生き続けている。これからは勝新太郎を乗り越えて、次々と作品を作り続けることこそ、偉大なクリエイターだった彼がぼくに望んでいたはずである。
『俺・勝新太郎』の内容は諳んじるほどとまではいかなくても、エッセンスはぼくの中に入っている。もはや、頁を開くことはないだろう。
この本は、会場に来てくれた二十代の女性に引き継いでもらうことになった。本の奥付近くに、2012.11.21というスタンプを押しておいた。これはいわば、卒業のスタンプだ。
この本は勝さんから直々に貰った本である。彼女からさらに別の人に引き継がれるかもしれない。この印は、勝新太郎さんからぼくを経由した本であるというささやかな証明である。
昨日の『本の卒業式』は、『偶然完全』を一年前に出したぼくにとっての一つの卒業式にもなった。

2012年11月19日

今年中の解散、総選挙はないかもしれないと思ったのは、今月の頭のことだった。
選挙がないのならば、進行しているもう一冊の取材をできるだけ進めておきたい。手紙を書き、取材の約束を取り付けるべく動いていた。
すると――突然の解散である。いきなりのことで慌てている。
さて。
今週水曜日の「本の卒業式」が近づいた。
色々考えて、二冊の本を取りあげることにした。一冊は二十代でぼくがもっとも影響を受けた本の一つを、もう一冊は、ぼくが「卒業しなければならない」本を選んだ。後者を会場に来てくれた方の中から一人に託すことになる。一緒に話をする、末吉里花さんは環境問題やフェアトレードに詳しい才媛である。司会、モデレーターは、『greenz.jp』編集長の兼松佳宏さん。少人数で、和気藹々と本の話をしたいと思っている。是非、参加を!

参加申し込みは、英治出版のサイトからお願いします。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

Pass The Book――本の卒業式――
日時:11月21日(水) 18:30開場、19:00開演(21:00頃終了予定)
会場:EIJI PRESS Lab
(東京都渋谷区恵比寿南1-9-12ピトレスクビル5F)
 最寄駅:JR山手線恵比寿駅、東京メトロ日比谷線恵比寿駅
参加費:2000円 ※お飲み物をご用意いたします。
定員:30名 ※先着順とさせていただきます。
持ち物:参加にあたって、「自分が卒業したと思える本」を一冊ご持参ください。

会場となる英治出版の会議室。感じのいい場所である。大きな本棚には、西水美恵子さんの本など英治出版の本が飾られている。中にはもちろん「辺境遊記」もある。

2012年11月14日

ぼくの場合、長期の取材旅行は珍しくない。
アメリカ、ブラジル、欧州を回って、三週間ほど日本を空けるというのは年中行事である。ただ、今回のように、高知、香川、大阪、そして兵庫と日本で複数の場所を回ることは、これまでなかった。
日本では、ブラジルなどと違って人々が約束を守ってくれる。予定をぎっしりと詰め込むことが出来たので、濃い約一週間になった。同じ日本ではあるが、言葉(特に年配の方の言っていることが聞き取れない!)、文化の違いがあることを改めて感じた。この取材旅行の果実はまたの機会に報告したい。

取材旅行は、現地の旨いものを食べ、楽しくやっているように思われがちである。もちろん、嫌なことをやっている訳ではない。
一人の人間の人生を辿ってあると、その気持ちに寄り添うようになる。苛酷な人生を送った人を調べていると、寝ている時に悪夢に悩まされることもある。 また、移動が多いと身体にも負担が掛かる。ちょっとゆっくりしたい気持ちもあるのだが、取材をするとさらに不明な点が次々と出てきた。疑問が新たなうちに解決できるものは片付けておきたい。しばらくは落ち着けない日々が続く。

今回の取材旅行に合わせて、GXRのA12 28mm F2.5のユニットを中古で買った。50oのA12だけだと、どうしても収まりがつかないことがある。資料用の撮影には広角が必要だった。
28oのレンズは、GRDで慣れているので、取り扱いは問題ない。AFが格段に速く、ピントに神経質にならなくていいのは有り難い。下のうどんの写真は二枚とも28oで撮っている。
ただ、50oの持っている独特の雰囲気、キレはない。もう一つ下の市電と城の写真は50oを使った。普段は28o、きちんと撮りたい時、特に昼間のポートレイトは50oという使い分けに落ち着いている。

夜の法善寺横丁。暗いところは、AFの速さを考えると28oを多用することになる。

2012年11月11日

昨日、高知から特急「南風」で丸亀を経由して高松に到着した。片付けなければならない仕事があり、車中ではパソコンを開いていた。集中しなければならないと思いながらも外の景色が気になる。紅葉の山々、渓谷を通り過ぎた。あっという間に通り過ぎるのが勿体ない風景だった。
四国は、海と山があり、魚も旨い、実に魅力的な場所である。
特に関東圏は、カラオケやコンビニ、パチンコなどチェーン店の看板に浸食され、どの街も同じような景色になっている。四国は瀬戸内海を挟んでいるため、本土資本と距離があるのか、街並みに個性が残っている気がする。
高知駅前のホテルに荷物を置いて、善通寺に向かった。駅に戻って、自分が東京の癖をひきずっていることに気が付いた。駅の時刻表を見上げると、電車は一時間に一本程度しかなかった。レンタカーを借りるべきだったと後悔した。

香川に来たら、うどんでしょ。高松駅近くの「玉藻」といううどん屋さん。かなり旨い。

「玉藻」を気に入り、二日連続で通うことに。大金を持っているからといって、美味しいものを食べられる訳ではない。正しく旨いものは、貧富の差を作らないのだ、とうどんを啜りながら思った。

2012年11月09日

昨日から高知に来ている。大通りの左右には椰子の木が植えられており、南国の風情がある。
数度目の訪問であるのだが、懐かしい印象のある街である。街の南北、東西の大通りを走る市電のせいかもしれない。かつて、ぼくが生まれた京都では市電が走っていた。市電を走る姿を見ると、ぼくの記憶が刺激される。
以前、来た時は本当に仕事を済ませて、すぐに帰っていた。今回は多少余裕があるので、街を歩いて空気を 精一杯吸いたい。

ひっきりなしに市電がやってくる。一九〇円という微妙な料金のため、両替が面倒だが、交通システムとしては便利だ。

原稿が終わらず出張先にまで持って来ることになってしまった。仕事が一段落したので、高知城まで散歩。夕暮れに城が映える。

2012年11月08日

「Pass The Book 本の卒業式」というトークイベントに出演することになった。
 かつて、ぼくは『辺境遊記』の中でこんなことを書いた。

<旅は本のようなものだと思う。必要だと思うときに読めば、身体に染み渡る>

どんな心理状態の時に読むかによって、本は理解度が変わってくる。二十代半ばから後半に掛けて、今後どのように生きて行けばいいのか――将来が見えなかったあの時期に読んだ本はぼくにとって特別な重みがある。その中でも今のぼくの生き方に影響を与えた一冊が頭に浮かんだ。
その本について会場で話をします。

<<誰かの本棚にある、無数の本。
笑った本、泣いた本、ボロボロになるまで読み込んだ本……
そして、自分を成長させてくれた本。

その大切な本の一冊を「卒業」して本に込められた思いとともにほかの誰かに「引き継いで」みると、その本はどんどん「特別な本」になっていくのでは?

そんなアイデアから生まれたのが「Pass The Book――本の卒業式――」

毎回、素敵な活動をしているゲストをお招きしてその方に「自分の大切な一冊」について語ってもらい、当日いらした方のお一人にその本を差し上げる、というイベントです。

第2回目のゲストは、世界各国をめぐったことのあるお二人をお招きします!ぜひご参加ください!>>

Pass The Book――本の卒業式――
日時:11月21日(水) 18:30開場、19:00開演(21:00頃終了予定)
会場:EIJI PRESS Lab
(東京都渋谷区恵比寿南1-9-12ピトレスクビル5F)
 最寄駅:JR山手線恵比寿駅、東京メトロ日比谷線恵比寿駅
参加費:2000円 ※お飲み物をご用意いたします。
定員:30名 ※先着順とさせていただきます。
お申込みはこちらから
持ち物:参加にあたって、「自分が卒業したと思える本」を一冊ご持参ください。

http://greenz.jp/2012/11/05/passthebook2/

リオのカーニバルにて。ダンサーの後ろからシャッターを押した。

2012年11月03日

昨日はcobaさんの20周年ツアー最終日である東京公演へ。
初めて彼のライブを見に行ったのは、ぼくが就職したばかりの頃だった。cobaさんと仕事の付き合いがある知り合いに誘われ、麻布のライブハウスに出かけた。今から考えれば、cobaさんもデビュー直後だったはずだ。
ライブが始まって、しばらくして「前を見て」と知り合いがぼくの脇を小突いた。ぼくたちの前には小柄な女性が身体を揺らせているだけだった。なんのことか分からず、首を傾げた。すると友人は「ビョークだ」と耳元で囁いた。アイスランドの歌姫である。その後、cobaさんはビョークと世界60カ国に渡るワールドツアーに出た。

その後、cobaさんとは『週刊ポスト』時代の99年4月、一緒にイタリアのローマとバーリへ行く機会があった。『道浪漫』という番組収録に同行してモノクログラビアのページを作るという、今では考えられない緩い企画だった。まだ出版社もレコード会社も予算と気持ちに余裕があった。
当時、コソボ紛争でバーリの空港は閉鎖されていた。ローマからタラントという街まで飛行機で飛び、バーリの空港までバスで移動することになった。付け焼き刃で行きの飛行機の中でイタリア語の本を読んでいた。イタリア語はポルトガル語に似ており、意外と通じた思い出がある。
それ以来、ライブに誘ってもらったり、彼のプロデュースするレストランのパーティに呼ばれたりという付き合いが続いている。(確か、新潟だったと思うが)芝居と音楽を融合したイベントを見に行った際、打ち上げで戸川純さんと飲んだのもいい思い出だ。
昨日のライブは、20周年ということで、昔の曲を沢山演奏した。cobaさんの演奏を見ていると、アコーディオンが様々な音を出す、最強の楽器のように思える。バックの人たちも巧く、素晴らしい演奏だった。
ライブの途中から、ワインが飲みたくて仕方がなかった。終了後、久し振りに元岩井食堂の岩井さんのいる『がっと』に出かけ、赤ワインを飲んだ。素晴らしい夜だった。

ライブ会場で買い忘れていたcobaさんの最新アルバムを購入。いつも仕事をしながら音楽を流している。しばらくこのアルバムはヘビーローテーションになりそうだ。